# NV中心 DFTモデル解析ビューア 解説書

## 目的

`nv_dft_viewer.html` は、DFT計算用に作った構造を目で確認するための解析ビューアです。まだDFTの答えを出すソフトではなく、次のことを確認するための道具です。

- どこに窒素 N があるか。
- どこに炭素空孔 V_C があるか。
- 初期状態から終状態へ、どの原子が動く設定になっているか。
- NEB計算後に、障壁が高いか低いかをどう読むか。

## 開き方

このHTMLは `qe/.../initial.xyz` と `final.xyz` を読みます。ブラウザの安全制限を避けるため、ローカルサーバーから開くのが確実です。

```powershell
python -m http.server 8765
```

その後、次を開きます。

```text
http://localhost:8765/dft_nv_nitrogen_vacancy_model/nv_dft_viewer.html
```

## 画面の見方

左側が3D構造、右側が解析パネルです。

- 灰色: 炭素 C
- 青: 窒素 N
- 赤いワイヤー球: 炭素空孔 V_C
- 緑線: 注目している移動経路
- C原子は、途中で座標が変わる場合も灰色のCとして表示します。存在しない原子を追加しているわけではありません。

「初期」「経路」「終状態」またはスライダーで、原子配置を線形補間して表示します。これはNEBの本計算結果ではなく、初期構造と終構造をつないだ見取り図です。

原子表示は、炭素C、窒素N、空孔だけです。途中で座標が変わる炭素も灰色のCとして表示します。別の原子を追加する表示は使っていません。

## ビューアで使う計算式

このビューアはDFTソルバーではなく、DFT/NEB入力構造と研究モデルを見える化する解析ビューアです。画面内で使っている式は次です。

### 構造の途中表示

初期構造と終状態を線形補間しています。

```text
Ri(s) = (1 - s) Ri_initial + s Ri_final
0 <= s <= 1
```

これは見取り図用です。実際の最小エネルギー経路はNEB計算で求めます。

### knock-on判定

電子が原子へ直接渡せる最大エネルギーは次の式で見積もります。

```text
Tmax = 2 Ee (Ee + 2 me c^2) / (M c^2)
```

低エネルギー近似では次の形になります。

```text
Tmax ~= (4 me / M) Ee
if Tmax < Ed: Gv_knock-on = 0
```

`Ee` は電子の運動エネルギー、`M` は標的原子の質量、`Ed` は変位しきい値です。

### 電子の雨モード

エネルギースライダー `x` は0から1に正規化され、10 eVから30 keVまで対数スケールで変わります。

```text
Ee = 10^[log10(10 eV) + x {log10(30000 eV)-log10(10 eV)}]
```

エネルギーが大きいほど深く入る見た目にするため、概念的な到達度 `reach` と表示用侵入長 `lambda_vis` を使っています。

```text
reach = smoothstep((log10(Ee)-log10(30))/(log10(30000)-log10(30)))
lambda_vis = 3.2 A + 14.0 A * reach
```

電子の量は、粒子数と光の強さに入れています。

```text
amount = slider_amount / 45
```

これは見える化のための式で、実際の阻止能や侵入深さを精密計算したものではありません。

### 2D断面の侵入深さ表

2D断面では、メインのエネルギースライダーで決めた入射電子エネルギー `E0` が、表面から深さ `z` へ進むにつれて指数関数的に弱くなる概念モデルを使います。13 eVは初期値ではなく、深さ方向で「ここまで残りエネルギーが下がった」という基準線です。

```text
E(z) = E0 exp(-z/lambda)
I(z)/I0 = E(z)/E0 = exp(-z/lambda)
z_13 = lambda ln(E0 / 13 eV)
```

`lambda` は表示用の減衰長です。2Dグラフでは横軸を深さ `z (A)`、縦軸を残りエネルギー `E(z) (eV)` として、`E(z) = 13 eV` になる深さに縦線を引きます。これは実材料の定量的な電子輸送計算ではなく、低エネルギーほど表面近傍、高エネルギーほど深部まで届くという関係を見える化するための式です。

### NEB障壁の読み取り

NEB計算後の相対エネルギーから、初期状態基準の最大値を障壁として読みます。

```text
Delta Ei = Ei - E_initial
Ea = max(Delta Ei)
```

## 電子の雨モード

右側の「電子の雨」を押すと、初心者向けの概念アニメが始まります。

このモードでは、水色の電子が雨のように格子へ入り、中心付近で光の輪が出て、NまたはN近傍の欠陥構造が「えいっ」と動くように表示されます。

大事な注意:

- これは「電子がN原子を直接押した」と証明する表示ではありません。
- 低エネルギー電子が局所的な電子励起や電荷状態変化を作り、その結果として移動障壁が下がるかもしれない、という考えを絵にしたものです。
- 本当に起こりやすいかどうかは、NEB計算で得る障壁を見て判断します。

「えいっ再生」を押すと、同じアニメを最初から再生します。

## 完全2Dモード

右側の「完全2D」を押すと、3D表示を隠して、表面から見たダイヤモンド断面だけのアニメになります。

このモードでは、論文図のようにダイヤモンド中のC格子サイトを灰色の粒子として並べ、その一部を欠陥として変化させます。赤い輪は空孔V、青い丸は窒素、黄色のぼかしは電子照射による局所的な電子励起です。`V1` と `V2` は最近接の炭素格子サイト対として配置し、`N_i` が `V1` に入った後に `N_s` と `V2` が隣接するようにしています。表示しているのは「空孔Vが電子を捕まえてNを引き寄せる」過程ではありません。`N_i + V1 + V2` のような欠陥複合体全体が励起される、という見方です。

表示の流れは次です。

1. 電子照射により、`N_i + V1 + V2` 欠陥複合体周辺が局所的に電子励起される。
2. 電子・正孔捕獲で、欠陥複合体の電荷状態と結合状態が変わる。
3. 格子間窒素 `N_i` が、空いている炭素格子サイト `V1` と再結合して置換型窒素 `N_s` になる。
4. 隣にもう一つの空孔 `V2` が残り、`N_s - V2` ペアが NV center になる。

画面下には、英語の `Fig. 1.` キャプション、粒子の意味、Step 1-4 の説明を常に表示します。現在のステップは黄色く光る枠で示します。

大事な注意:

- これは説明用の概念アニメです。
- 電子がNを直接押し込む、という意味ではありません。
- 空孔Vが電子を捕まえて `V-` になり、窒素を静電的に引き寄せる、という意味でもありません。
- 駆動力は静電引力だけではなく、格子間窒素と空孔が再結合して、歪んだ格子が修復されることでエネルギー的に得になる、という点が重要です。

完全2D画面をクリックすると、段階が1つずつ進みます。「2D再生」を押すと、自動ループとして最初から再生します。

### エネルギーと電子の量

概念表示には、2つの調整スライダーがあります。

- エネルギー: 大きくするほど、電子がダイヤモンドの奥まで入っていく表示になります。低い値では表面近くで止まりやすく、高い値では欠陥中心を越えて深く進むように描きます。
- 電子の量: 大きくするほど、中心付近の黄色い励起ハイライトが強くなります。これは電流密度や照射量が増えて、電子正孔対生成や励起イベントが増えるイメージです。粒子が雨のように降る表示は使っていません。

これはあくまで概念表示です。実際の侵入深さや生成率を定量化するには、電子エネルギーごとの阻止能 `Se`、侵入深さ、試料表面状態を別途見積もる必要があります。

## 3つのモデルの意味

### 1. N_i + V再結合

これは、格子の隙間にいる窒素 `N_i` が近くの空いている炭素格子サイト `V_C` と再結合し、置換型窒素 `N_s` になるかを見るモデルです。

重要な点は、空孔が1個だけなら、`N_i` が `V_C` サイトを占有した時点で空孔は消えることです。終状態は置換窒素 `N_s` であり、NV中心そのものではありません。つまり、この経路が起こっても「NVができた」とはすぐには言えません。

このモデルで言えること:

- `N_i` が `V_C` と再結合して `N_s` になりやすいか。
- 電子照射後に格子間Nが残るか、置換Nへ戻るか。

このモデルだけでは言いにくいこと:

- NV中心が増える主原因である、という断定。

### 2. 空孔ホップ → NV

これは、置換窒素 `N_s` の近くにある空孔が移動し、窒素の隣に来てNV幾何配置になるかを見るモデルです。

NV形成の説明としてはこちらが本命に近いです。DFT/NEBでは「空孔が動く」と直接書くより、隣の炭素が空孔へ移動することで、空孔が逆向きに動いたように表します。

このモデルで言えること:

- `N_s` の近くの空孔が、NV配置へ再配置しやすいか。
- 中性、正、負電荷状態で障壁が変わるか。
- 低エネルギー電子照射で、電子励起や電荷状態変化が移動を助ける可能性があるか。

### 3. 置換N → V2

これは、置換窒素 `N_s` の隣に2個の炭素空孔が並んでいる欠陥複合体を考え、Nが近い空いている炭素格子サイトへ移るかを見るモデルです。

初期状態では、Nは置換位置にいて、その隣にVが2個あります。終状態では、Nが片方の空いている炭素格子サイトを占有し、Nが元いた場所が新しい空孔になります。もう一つの空孔は近くに残ります。

このモデルで言えること:

- Vが2個あるとき、Nの移動で空孔構造が完全には消えず、欠陥複合体として再構成しうるか。
- 電子励起や電荷状態変化で、置換Nが隣接空孔へ動く障壁が下がるか。

このモデルで注意すること:

- これは電子がNを直接押すモデルではありません。
- 本当に動きやすいかは、電荷状態ごとのDFT緩和とNEB障壁で判断します。

## NEB障壁の読み方

NEB計算を実行すると、反応経路上の相対エネルギーが得られます。ビューア右側のテキスト欄に相対エネルギーを1行ずつ貼ると、障壁の目安を表示します。

目安:

- `0.3 eV` 未満: 室温でも動きやすい候補。
- `0.3-1.0 eV`: 室温では遅いが、照射や励起で現実味が出る。
- `1.0-2.5 eV`: 室温熱拡散だけでは厳しい。電荷状態変化で下がるかが重要。
- `2.5 eV` 超: 低エネルギー電子照射だけで頻繁に起こる主過程とは考えにくい。

## 低エネルギー電子照射の考え方

30 keV以下の電子では、炭素や窒素へ直接渡せる最大エネルギーは数 eV 程度です。ダイヤモンド中の原子を直接はじき飛ばすには一般に数十 eV が必要なので、「電子が原子を物理的に押し込む」という説明は弱いです。

研究としては、次の説明の方が自然です。

1. 低エネルギー電子が局所的な電子励起を作る。
2. 欠陥の電荷状態が変わる。
3. その電荷状態では、空孔やN-V複合体の移動障壁が下がる。
4. 結果として、室温または低温でも一部の構造再配置が起こる。

## 3段階モデル

論文・発表で一番きれいに見せるなら、次の3段階に分けるのが分かりやすいです。

### Step 1: 直接空孔生成を否定する

入射電子が炭素原子へ渡せる最大エネルギー `Tmax` が、炭素空孔生成に必要な変位しきい値 `Ed` より小さいなら、直接knock-onによる空孔生成は入れません。

```text
Tmax ~= (4 me / MC) Ee
if Tmax < Ed:  Gv_knock-on = 0
```

100 eV以下では `Tmax` はさらに小さいので、ここはかなり強く `0` と置けます。

### Step 2: 電子照射の主作用を入れる

主作用は、原子を叩き出す力ではなく、非弾性散乱による電子系の励起、電子正孔対生成、表面近傍の電荷状態変化として扱います。

```text
Edep = integral Se(z,E) dz
Geh(r) = (Je / e) Se(r,E) / epsilon_eh
```

100 eV以下へ拡張する場合は、電子の侵入深さが浅いので、表面近傍に局在した生成率として置くと扱いやすいです。

```text
Geh(z) = G0 exp(-z/lambda_e)
```

キャリア拡散まで入れるなら、例えば電子密度 `n` は次のように置けます。

```text
dn/dt = Dn nabla^2 n + Geh - n/tau_n - Cn n ND
```

### Step 3: N-V関連複合体の再構成としてNV形成を書く

低エネルギー電子で新しい空孔を作るのではなく、すでにある準安定なN-V関連複合体 `Cmeta` が、電子励起や電荷状態変化でNV配置へ移る、と書きます。

```text
d[NV]/dt = eta kex Cmeta
```

照射量 `D` に対してNV PLが増えて飽和するなら、最小モデルは次です。

```text
[NV](D) = [NV]0 + [NV]sat {1 - exp(-sigma_eff D)}
```

NV数の増加と、NV0/NV-の電荷変換は分けて書く方が安全です。

```text
d[NV-]/dt = k0m n[NV0] - km0 p[NV-] + Rform-
```

ここで `k0m` は NV0 から NV- への有効変換、`km0` は NV- から NV0 への有効変換を表す簡略記号です。

## 次に行う計算

1. `qe/ni_to_vc/relax_initial.in` と `relax_final.in` を走らせる。
2. `qe/vacancy_hop_to_nv/relax_initial.in` と `relax_final.in` を走らせる。
3. 緩和後の座標で `neb.in` の端点を更新する。
4. 中性、正、負電荷状態でNEBを比較する。
5. 障壁が低い経路だけ、より大きいセルまたはHSE06で再計算する。

## 論文・報告書での書き方

現時点の安全な表現:

「低エネルギー電子照射でN原子が直接押されるという単純なノックオン機構は、最大エネルギー移行の見積もりから考えにくい。一方で、電子励起または電荷状態変化によって、N-V関連欠陥複合体の再配置障壁が低下する可能性がある。そこで、格子間N_iが空いている炭素格子サイトV1と再結合してN_sになり、隣にV2が残る経路と、置換N近傍の空孔ホップによるNV形成経路をDFT/NEBで比較する。」

避けた方がよい表現:

「低エネルギー電子がNを空孔へ押し込むことをDFTで証明した。」

まだDFT/NEBの実計算が終わっていないため、この言い方は強すぎます。
